天守閣

天守閣は天心を登録した故青山慶氏が最後に登録にかけた品種です。青山氏は私が駆け出しの頃、すでに春蘭の書籍を執筆されていて全国的にも著名な大家の一人でした。群馬県春蘭会を創設して中央とのパイプ役をしながら地元の春蘭普及に努力された方でもいます。
天守閣を見せられたのはかなりご高齢になってからのことです。登録のための全国展出品の帰宅途中だったと記憶しています。Kさんならいくらに値踏みするか言ってみろというのです。私は怒られるからいやだと言いました。しつこく怒らないから言ってみてくれと言うのです。花がいくつか付いて5号くらいの化粧鉢に入っていたと思います。『30万だ』と言いました。葉も花も状態が悪く『こんなもの登録出来るわけがない』と言う印象でした。それでも青山氏は自分は240万円の値踏みをしていると言いました。『だから聞くなと言ったのに』と言った覚えがあります。晩年は天守閣も含めほとんどの蘭を駄目にしてしまい春蘭会の有力会員に分譲された天守閣が現在の流通品になりました。後から聞いた話では最終的に青山氏が売った値段は私の値踏みとほぼ同じ価格だったようです。
それから10年以上経っていたと思いますが私の主催する春蘭展に見事な天守閣の株を持ち込んできた方がいました。初めて見せられた天守閣のやや貧弱なイメージとは全く異なったむしろ私好みの蘭でした。
天守閣は萌黄葉で出芽します。硬質でしっかりした葉性で締まった姿になります。性質も丈夫です。赤軸の黄花白舌花を花茎を伸ばして咲かせます。落弁ですが何とも言えぬ上品な風情を醸します。私はこの蘭を表現する時、『菱川師宣の見返り美人画』のようだと言います。
丸い花は価格的にも評価されますが『風情』が評価されないのは残念です。