品種の特性   
 品種の判別と通ずる内容ですがあえてページを換えます。春蘭を見極めることによってさらに深遠な春蘭趣味に没頭出来ますよう書かせていただきます。

秩父錦 
 「最近ネットで秩父錦が人気があるみたいだ。良い値で売れている。」と言った人がいます。「ほんとか」と聞きました。「ただし名前が違うけどね。」と返されました。
 大間々の青山慶氏は天心を始め自分の登録品にすべて「天」をつけていました。
「Tさん(私)これを登録に持って行ったけど登録できませんでした」と言う蘭を見せてもらいました。昔のことです。それが天照です。天照は青山氏が用いた名称です。柄の冴えた秩父錦でした。秩父錦に似ていて登録してもらえなかったので、秩父錦を買ってきて1年間新芽の成長から見比べてから来年また登録申請すると言っていました。秩父錦を買ってくると言うことは秩父錦をろくに栽培していなかったと言うことです。「青山さん、1年栽培しても10年栽培しても秩父錦は秩父錦でしょう。」と言った覚えがあります。駆け出しの若ぞうが登録をしたり蘭の本を書いたりしている全国的にも有名な大先輩によくもまあ失礼なことを言ったものです。
 秩父錦の特性を書きます。日が弱いところで栽培すると雪白の中透けで出芽します。ただしそのまま日の弱いところに置いておくと真っ青に暗みます。日が強いと新子に散斑が早く入ってやや暗みがちになりますがバックになっても散斑が残ります。これは虎物や蛇皮物にも通ずる特性ですが図物は後で書きます。山奥や寒冷地で作ると出芽が遅く伸びきる前に秋になってしまいます。気温が下がるので暗みません。2年木3年木まで白中透けのきれいな秩父を見たことがあります。青山氏の天照も2年木くらいまで柄の残っているちょっときれいなという程度の秩父錦でした。連合会が登録していれば末代の恥と言うだけです。天照ばかりでなく銘品を違う名称で平気で扱っている業者がいればそれだけでレベルが知れると言うことです。都紅は東の光、光阿弥・太陽は天紅香、銘品ではないですが織姫山や陽明門は緋鵬です。玉殿の松もいろいろな名前で登録されたり流通したりしています。いろいろな名前を使えばいくつも売れます。かたくなに玉殿の松を統一して扱っているのは頭が固いだけで商売がうまいとは言えませんが蘭のようなものを扱うには、また楽しむにしてもしかるべき姿勢のように感じます。

図物について 
 虎ものや蛇皮図についてお話します。基本的に芽出しは早くないほうがよいです。寒い地域の方が虎が出やすいのは芽出しが遅れるためです。近年温暖化と温室設備の普及等で芽出しが早くなりがちですが、よい柄を出すには芽出しの調整から必要になってきます。3月頃芽を出してはよい柄は望めません。
 芽が出てからは日は弱め、湿度は高めが原則です。蘭舎の一番風通りの悪いところが虎の置き場所です。虎は日を採れと昔から言いますが最初から強日を当てますと新芽が伸び出すところから堅くなってしまって
柄が出ずらくなります。日が当たると言うことは温度が上がることになります。錦波など天冴えで芽出しから白っぽい蛇皮が出ますが、強い日を採ると葉の温度が上がるために伸びながら暗むという現象が起きます。昔から朝日を採れと言ったのは気温が上がる前の「冷たい日照」なら採ってもよいと言うことです。
 梅雨明け頃新芽が4〜5cmになったときにうっすら白っぽくなっていればよい状態です。この頃からやや強めに採光します。同じ蛇皮図でも錦波と世界の図では柄の出方が違います。錦波は天冴えで出芽しますが世界の図は梅雨明けのこの頃気温が急激に上昇することよって柄が一気に出始めます。いずれにしてもうっすら出た柄を今度は採光によって冴えさせるわけですがあまり強い日を採ると蛇皮系統は先にも言ったように葉の温度が上がって青のりがのってきてしまいます。この点虎ものは一度柄が出始まっていればこの時点で暗んだりすることはないようです。秋に日を採って柄を冴えさせるのも要は気温が下がってからなら強めに日を採ってもよいと言うことです。
 図物の柄は芽出しから梅雨明け土用頃までに出るかでないか決まってしまいます。あとから日を採っても手遅れです。夏の暑い時期こそが図物の微妙な柄の推移を楽しむ一番の時期でもあるのです。 湿度・日照・気温の上昇といった要素をそれぞれの品種に考え合わせながら上柄作りに挑戦しましょう。