品種の判別
  
品種の特性と重複する部分があると思いますが二ヶ所に分けることにしました。暇を           見て書き足していきます。春蘭を見極める手だてになればと思います。

                


金竜の話し

 元もと守門竜は坪取りで人によっていろいろ言いますが確かに別個体のものがいくつかあります。ただ残念なことにそれを見極めることの出来る人がいなかったようです。と言うより私が蘭を始めた時分、守門竜や秩父錦は初心者が入手の大目標にするような人気品種だったのでことさら選別する必要がなかったのかもしれません。しかしながら今の羽蝶蘭のように実生で優良個体の似たような物がたくさん出来る時代でなかった時に一つの個体を株分けで増やす古典植物としては出来るなら選別することは必要だったのではないかと考えます。桃山錦の話しは後でしますが桃山錦の優良個体はいくつかの銘品仮銘品に選別されました。
 何鉢か栽培する守門竜の内一鉢だけ群を抜いて美しい芸をする物がありました。同じ棚で同じように育てて違うのです。
 それ以前に丁度同じサイズで同じ本数の二鉢の守門竜を並べて販売していたことがありました。大きな出来上がっている株でした。一鉢買ってくれたお客様がいてどうしてそれを選んだのか聞きました。その方が言うのにバックに柄が残っているからだそうです。
 昔故青山慶氏の棚で気持ち悪いほど幅をひいてうねっている守門竜を見ました。今も印象に残っていますが蛇皮は暗い物でした。
 守門竜が普及している段階では皆葉幅の引いた物を所望しました。幅のない物は2号性と言われていました。腰高で幅はあまりないけれど美しい蛇皮図が現れている物がほとんどでした。
 春蘭は栽培状況によって葉姿はだいぶ違ってきます。守門竜に違いを感じ始めた頃は有機肥料しか与えていない時代でした。有機栽培で育てていたときはそれぞれの蘭の特性が際立っていたように思えます。化学肥料に切り替えてから今で言う金竜も幅を引き他の守門竜と区別できなくなったのです。そんな中でも先に述べたようないろいろなことを考え合わせながら栽培していると守門竜の顔が2つに見えて来たように思えました。
 金竜は基本的に1号性と呼ばれていた物より葉幅は引かない、作りにもよるがやや腰高になることが多い、わずかな感触だが葉が硬いなどの特徴があります。それにもまして一番の特徴は上手く作るとバック木まで全く暗まなく出来る点です。過去に全国展に出品された守門竜の多くは金竜の方だと言うことがわかります。バック木まで柄が残っている物とそうでない物とでは残っている物の方が写りが良いに決まっています。だから大舞台に出品されていたわけです。
 ここで越後大蛇のことも説明しなければなりません。大蛇は守門竜の内特に幅の引いた個体に冠せられた名称です。特に美しい芸をする一鉢に金竜と名付けてからこの越後大蛇の存在は避けては通れなくなりました。守門竜を3種に分けて大蛇と守門竜と金竜とすることにしましょう。そうすると守門竜という天下の大銘品の存在が稀薄なものになってしまうのです。幅も引かず柄も出ないものが守門竜だということになってしまいます。。それでは2種類とることにすると越後大蛇と守門竜、金竜と守門竜どちらを取るのが最良か。前者を取ると守門竜が私の言うところの金竜になるわけです。そもそも1号性と称して幅の引く物が持てはやされていたように守門竜の見所はやはりその葉幅だと思いました。私は後者を取ることにしました。私の中から越後大蛇と言う名称は消去されたわけです。幅をひくタイプが守門竜、柄がきれいに出る方が金竜ということになります。ただいまでも中間的な存在としての守門竜兄弟株があるかどうかは定かではありません。


黄天龍の話し
 
 ややこしくなりますが金竜の話しの続きです。先にも述べたように栽培状況によって蘭の姿は判別に困難を来すほど変わります。同じ品種を10、20と同じ状況で栽培しなければなかなか蘭の特性は見えてきません。きれいな守門竜に金竜と名付けてから金竜らしき守門竜を買い集めました。間違いない特性を示した物だけ金竜として売り、残りは番号を付けて栽培していました。その中には十に一つ金竜でなく守門と思われるものも出ました。ところが1種類だけどちらともつかず鉢数だけ増えていった番号の物がありました。
 思い出したことがあります。近くの大棚にそれと同じ物があったことを。栽培者は無銘だと言っていました。私はちょっとやせた守門竜だと言っていたのです。でもその株は葉幅こそ守門竜の物ではなかったけれども雄大で立派な株でした。
 黄天龍と名付けることにしました。黄天龍は大型で葉肉がありそのためか蛇皮点にやや鮮明さを欠く柔らかい感じの蛇皮図を現します。腰が強い点は金竜同様ですが垂れません。錦波以上にゆるやかなカーブを描きます。第3の守門竜かとも思いましたが、違う可能性の方が高い気がします。昔は大銘品が高価だったために無銘の葉性柄性の似た品種は大銘品の名で売った方が売りやすく儲かったわけです。私が名付けさせてもらった紅衣仙は歌麿として、奥州路は山形県で大雪嶺として栽培されていたりしたわけです。黄天龍も守門竜の実生兄弟木でなく古くにこのような経緯で守門竜に混ざっていた別物のように思えます。


利休と鈴虫の話し

 「趣味の山野草」の最初の別冊だったと思いますが利休という名前で豆花が載っていました。手に入るなら欲しいという問い合わせがたくさんありました。わたしもあまりに堂々と載っていたし、自分で蘭を発掘するということを始めたばかりだったのですぐには気が付きませんでした。
鈴虫は葉がややよれます。また舌点が薄く準素心といえるくらいです。こんな中途半端な舌点の花は並花でも全国の山じゅう探したって見つかりません。しかも豆花です。豆花はむしろU字点で鮮明なものが多いのです。
 本に載っていた利休の持主が判りました。K氏でした。K氏には一般愛好家に豆花の人気が出る直前に鈴虫を納めていました。1條5千円以下だったと思います。利休はK氏が買い入れたときすでにその名前が付いていたそうです。鈴虫も利休もともに仮銘品でどちらの名前を使っても文句のないところですが、それが同一品では困ります。K氏は両方持っているのですから当然判っているはずです。鈴虫が増えた頃売ってくれといっても売ってもらえませんでした。利休で買ってくれる業者がいればその方が高いからです。とうとう私が納めた鈴虫は1本も戻りませんでした。当時鈴虫は1條2万円、利休は6万円の相場が作られていました。お客様の電話に、「鈴虫と利休は同じ物だから鈴虫を買えばよいのです。」と答えていました。しかし利休をほしがっている人で誰一人鈴虫を買う人はいませんでした。花を見て欲しいというのに何で鈴虫と利休が同じものだと判らないのか、また判らないからでしょうけれど利休は欲しいが鈴虫はいらないというのが不思議でなりませんでした。一度鈴虫で販売し始めているのに儲かるからと高い方の値段で扱うことは出来ませんでした。
 後で作った栃の葉書房の春蘭シリーズに利休の名で載せたのと同じ写真を鈴虫で載せました。私もしつこい性格なものでここまで公に言えることですよという感覚で載せたのです。遠方のお客様から最近になって電話で言われました。「実はあのころ利休を買っていたんです。やはり鈴虫と同じだったですね。Tさんの言うことを聞いておけば良かったです。」と。目新しい名前に飛びつく前に良く品種を見定めるように心掛けましょう。ただ豆花人気を作ったのも鈴虫でなく利休だったかも知れませんけれど。
 しつこいところでもう一つ付け加えます。もし利休で買った物が鈴虫でないという人がいたらそれは利休でも鈴虫でもない全くの別物・偽物と言うことですので、ご自分でご判断ください。